今回は、脚本・演出・振付・総合プロデュースを務める北久保みゆきに、『紙くずの大冒険』誕生の裏側や、作品に込めた想いについて話を伺いました。
「なぜ主人公は紙くずなのか。」
作品が生まれるまでのエピソードとともに、その原点に迫ります。

「最高傑作」ではなく、「最高駄作」を描きたかった。
『紙くずの大冒険』の原点には、みゆきさんが長年抱き続けてきた、一つの想いがあります。
それが、「最高駄作」という言葉です。
「最高傑作っていう言葉はあるじゃないですか。でも私は、“最高駄作”を描きたかったんです。」
誰にも選ばれなかったもの。
失敗作と呼ばれたもの。
誰かにとっては必要なくなり、捨てられてしまったもの。
けれど、その存在が誰かの希望になり、最後にはヒーローになったりする。
「紙くず」という一見価値のない存在を主人公に選んだ背景には、そんな想いがありました。

新しい表現との出会いが、物語を動かした。
DREAM STAGEでは、これまでも毎年オリジナルの脚本と振付で作品を創り続けてきました。
その中で、みゆきさんが新たな可能性として出会ったのが、AIによる音楽制作でした。
「脚本も振付もオリジナル。でも音楽まで作品に合わせて作れるようになったら、もっと自分が描きたい世界を、そのまま届けられるんじゃないかと思ったんです。」
これまで積み重ねてきた創作に、「オリジナル音楽」という新しい表現が加わったことで、作品づくりの幅はさらに広がっていきます。
実は、『紙くずの大冒険』で最初に完成したのは、物語ではありませんでした。
「まず歌を作ってみようと思って。まだ物語は全部できていなかったんですけど、『紙くずの大冒険』というタイトルはあったので、主題歌みたいなものを作ったんです。」
完成した一曲を聴いた瞬間、「すごく心がときめいたんですよね。」と振り返ります。
その胸の高鳴りをきっかけに、『紙くずの大冒険』という世界をさらに広げていく原動力になりました。
「主題歌ができたことで、一気に世界が広がりました。そこから物語も、キャラクターも、どんどん膨らんでいったんです。」
『紙くずの大冒険』は、物語からではなく、一曲の音楽から動き始めた作品でもありました。
世界観は、一度では完成しない。
『紙くずの大冒険』の制作で、一番時間がかかることは何ですか?
そう尋ねると、みゆきさんは少し笑いながら、
「繰り返しですね。」
と答えました。
物語を書き上げたら終わりではありません。
音楽を制作すると、「この曲なら夜のシーンの方がいいかもしれない」と物語を書き換える。
物語を書き換えると、今度はキャラクターの表情や設定が変わる。
キャラクターが変わると、衣装とのバランスを考え直す。
すると、また物語を少し修正する。
そんな作業を、何度も何度も繰り返していきます。
「普通は脚本を書く人、音楽を作る人、デザインをする人、それぞれ役割が分かれていると思うんです。でも私は全部やっているので、一番いい世界観になるなら、全部を書き換えちゃうんです。」
さらに、『紙くずの大冒険』では、舞台だからこその視点も欠かせません。
イラストの世界だけで完結するのではなく、実際に演者が衣装を着て舞台に立つことまで考えて制作しています。
「本当はこのキャラクターにはこの衣装がいいなと思っても、実際には予算の問題や、既製品を使うこともあります。そうしたら、逆にキャラクターの方を書き換えることもあるんです。」
脚本、音楽、キャラクター、衣装。
どれか一つに合わせるのではなく、すべてが一つの世界としてつながるまで磨き続ける。
その積み重ねが、『紙くずの大冒険』という作品を形づくっています。
AIという新しい可能性を取り入れながらも、最後は人の感性で何度も世界観を磨き続けて生まれた作品なのです。
「最終的に舞台に立ったとき、『あのキャラクターがそのまま目の前にいる』って感じてもらえたらうれしいですね。」

主人公は、なかなか生まれなかった。
『紙くずの大冒険』の主人公・ペイジ。
実は、その姿が決まるまでには、何度も試行錯誤が繰り返されていました。
「主人公を紙くずにすることは、最初から決めていたんです。」
タイトルが『紙くずの大冒険』である以上、主人公は紙くず。
その考えは一度も変わりませんでした。
しかし、ひとつ大きな壁がありました。
「紙くずって、キャラクターにするのが本当に難しかったんです。」
丸められた紙。
それだけでは、どうしても主人公らしくならない。
かわいくもならない。
何度描いても、思い描いていた"ペイジ"にはならなかったと言います。
「ダンドンやスニッキーライトの方が、先に完成度が高くなってしまって(笑)。」
魅力的なキャラクターたちが次々と生まれていく一方で、主人公だけが最後まで形にならない。
それでも、主人公を変えようとは思いませんでした。
「どうしても、紙くずという存在を、この作品の象徴にしたかったんです。」
何度も描き直し、試行錯誤を重ねて、ようやくたどり着いた現在のペイジ。
だからこそ、みゆきさんにとってペイジは「一番好き」というよりも、特別な存在なのだと言います。
「好きなのは、みんな好きなんです。でもペイジだけは、やっぱり特別ですね。」
完成したペイジを見ると、その愛らしい姿からは想像できませんが、その裏には「紙くずを主人公にする」という挑戦と、何度も描き直しを重ねた時間がありました。


主人公は、なぜ「紙くず」だったのか。
空き缶でもない。
ペットボトルでもない。
段ボールでもない。
数ある“ゴミ”の中で、主人公が紙くずだった理由。
みゆきさんは少し考えながら、こう話してくれました。
「紙って、人との関わりがすごく深い気がするんですよね。」
メモを書く紙。
誰かに想いを伝える手紙。
子どもが夢中になって描いた絵。
紙は、人の想いを受け止め、記憶を刻む存在です。
「だから惹かれるんです。理由をうまく説明できるわけじゃないんですけど、主人公にするなら紙だなって。」
そして、『紙くずの大冒険』に登場するペイジは、ただの紙ではありません。
少女・エマが描いた絵や想いが刻まれた、一枚の紙です。
その紙が「紙くず」として捨てられた瞬間から、物語は始まります。
「ペイジには、紙そのものだけじゃなくて、エマが描いた想いも一緒にあるんです。」
だからこそ、ロストランドで出会う仲間も、広がっていく世界も、すべてエマの描いた想いから生まれていきます。
紙だからこそ、人の想いを運び、その先へつないでいける。
それが、この作品の主人公が「紙くず」である理由なのかもしれません。
「紙くず」は、本当に終わりなのだろうか。
「"くず"っていう言葉が、ちょっとネガティブじゃない?」
『紙くずの大冒険』というタイトルを考えていた頃、そんな声をもらうこともあったそうです。
たしかに、「紙くず」と聞くと、多くの人は"役目を終えたもの"や"捨てられたもの"を思い浮かべます。
けれど、みゆきさんは少し違う視点で、この言葉を見つめています。
「じゃあ、『星くず』って聞いたら、どう思いますか?」
星くず。
そう聞くと、不思議と美しい夜空や、きらめく景色を想像する人が多いのではないでしょうか。
同じ「くず」という言葉なのに、「紙くず」と「星くず」では受ける印象がまったく違う。
「私の中では、紙くずも星くずも、どちらも同じように光っている存在なんです。」
この考え方は、『紙くずの大冒険』の物語だけではなく、劇中歌にも込められています。
「実は物語の中では"星"ってそこまで前面には出てこないんです。でも歌詞には、たくさん出てくるんですよ。」
例えば、エンディング曲『星空を越えて』。
『虹の滑り台』に出てくる、”流れ星とハイタッチ”という歌詞。
さらに、『僕は失敗作』では、紙くずが星空を見上げながら、「自分はあんなふうには光れない」と感じる場面があります。
それでもみゆきさんの中では、紙くずと星くずは決して対照的な存在ではありません。
「床に落ちている紙くずも、空に輝く星くずも、本当は同じように価値のある存在なんです。」
床の上と空の上、『紙くずの大冒険』は床に落ちた紙くずから始まり、『星空を越えて』という楽曲で幕を閉じます。
物語の中で紙くずと星との距離は少しずつ縮まり、『流れ星とハイタッチ』という歌詞が生まれる頃には、その二つはもう遠い存在ではなくなっています。
それは、「捨てられたもの」も、「輝くもの」も、本当は同じ価値を持っているという、この作品の根底にあるメッセージそのものなのです。
そして、『紙くずの大冒険』というタイトルには、もう一つ大切な意味があります。
「紙くずって、普通は紙の最後の姿だと思うじゃないですか。でも、この作品では違う。紙くずは終わりじゃなくて、そこから物語が始まるんです。」
"終わり"だと思っていた場所が、誰かにとっては"始まり"になる。
そのことを、このタイトルだけで伝えたかったとみゆきさんは語ってくれました。

後編へ
『紙くずの大冒険』が生まれた背景には、「選ばれなかったものにも価値がある」という北久保みゆきさんの一貫した想いがありました。
では、その想いは、個性豊かなキャラクターたちにどのように息づいているのでしょうか。
後編では、キャラクターに込めた想い、この作品で一番伝えたいメッセージ、そして8月29日に上演されるDREAM STAGE『紙くずの大冒険』で描かれる新たな物語についてお届けします。



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